2012/01/07

苦しんでいる人に少しでも。癌性腹膜炎のこと(5)

■むくみ

癌性腹膜炎になると、腹水がたまる。
癌細胞が水のようなものを吐きだす。それが溜まる。
腹水がたまるだけでなく、排尿困難から下半身から背中の肩甲骨のあたりにかけてひどくむくむ。
さらに、そのむくみは一晩の姿勢によって変化する。
ずっと尻を下にしていれば、足や背中がむくむ。それが嫌で横になったりすると横になったところからはむくみが抜けて、尻がむくむ。
体の中の水分が移動するみたいだ。

むくむと寝台の上での姿勢のつくりかたが厄介。
なぜなら患者は動きたがるから。誰だって、一日中同じ姿勢でいたらたまらなくなるものだ。
しかし動くと後から壮絶な痛みを発する。
見守る人間としては痛がるのを見たくないから動くなと言いたくなる。
だが、患者本人はそのリスクを犯してでも動こうとする。
癌緩和マニュアルによると、膵臓がんの場合、座っていることの方が楽であるらしい。
また、肝臓がんの場合、右肩が異常に凝るらしい。
愁訴の内容から何が痛いのか、どこから来ているのかを想定して、できるだけ動かしてやるのがよいだろう。
むくみは動くことによって若干緩和される。
もちろん利尿剤も必要である。血圧の上が100を切ると使えないが。

腹水は抜くと一気に消耗する。成分は血漿と同じなので。
癌も身体の一部である。しかも患者の好むと好まざるにかかわらず、身体が受け入れたものである。
だから血管をつくったりまでする。そうして患者の補給したエネルギーをあたかも自分のもののように取り入れる。
そうして癌自体が大きく成長してゆく。
腹水抜きは最後の手段ととらえるべきだ。

苦しんでいる人に少しでも。癌性腹膜炎のこと(4)

■いたみどめ

癌は痛い。
痛い部位は癌によって違う。どう痛いのかも違う。
いえることは、癌が臓器を圧迫して、或いは臓器に喰らいついて痛いわけで、癌をとらないと痛みはなくならない。
その痛みも、臓器の損傷で痛いのか、臓器が損傷した結果おこる臓器不全のため痛いのか。さまざまだ。
どの道痛いのだから、癌を取れないなら痛み止めをつかうしかない。

<最初>
ロピオン+フェンタニル+アタラックス
総じてショット。痛みを止めて、眠らせようというやつ。フェンタニルのシールも使う。
痛みによって適宜増量。

<2>
フェンタニル持続点滴
最初のやり方でフェンタニルが効かなくなったら持続点滴。痛みがきたらフラッシュ。

<3>
モルヒネ持続点滴
フェンタニルが効かなくなったらモルヒネに。痛みがきたらフラッシュ。
モルヒネはフェンタニルと違い、即効性が無い。しかし定期的な使用はモルヒネ耐性をはやめるので不可。
モルヒネには副作用がある。吐き気など。これらは普通2週間くらいでなくなる。
あまりにもきついときはH2ブロッカーで吐き気を制御。
しかしこれをいれると保険の問題で病院食がでなくなる。
味覚障害など顕著に。

<4>
モルヒネ持続点滴+ミタゾラム
ミタゾラムは麻酔前の麻酔のようなもの。安定剤であり、眠ってしまう。すぐに効く。
この段階までくると、モルヒネによる意識レベル低下が著しいが、意識がなくても痛みはあるので、モルヒネは必要。
ミタゾラムは呼吸抑制があるので血圧・酸素量をしっかり見てから。

<最後>
モルヒネ・ミタゾラム持続点滴
ここまできたらほとんど意識レベルは無い。
血圧・酸素ともに下がる。嚥下がうまくいかず、痰がたまる。
呼吸抑制のあるミタゾラムと痰のからみによって、息が苦しくなる。
酸素が減る。血圧がさがる。脈が下がる、ということになる。

苦しんでいる人に少しでも。癌性腹膜炎のこと(3)

■くすり

原発によって使う薬が違う。原発不明の場合はヤマをはることになる。
今最有力なのはTS-1。
この薬は次のようなプロセスを経てプロドラッグ化した。()内はできた頃。

フルオロウラシル(1956)→5-FU(1990)→テガフールウラシル→TS-1(2000)

どのみち副作用はある。
肝臓の数値を見ながら飲んでゆく。
AHCCという健康食品と併せて飲むことで、副作用が軽減されることがあるとかないとか。
とにかく知ったことでいいと思ったらやってみるべし。
さもなければ万が一の時、患者の周りは後悔する。
「ああ、あの方法をやっておけば違ったかも・・・」
この後悔をできるだけ減らすことが、残された人々のココロをどれだけ軽くすることか。

苦しんでいる人に少しでも。癌性腹膜炎のこと(2)

■セカンドオピニオン

星の数ほどいる医者ひとりに「癌です」と言われて鵜呑みにしてはいけない。
多くの専門家の目を経てみるべきだ。セカンドオピニオンである。
これは委任状があれば患者自身がいかなくても家族だけでいくことができる。

<注意事項>

・人を盛る
たくさんの人でいくべき(五人くらい)。
一人では客観的な質問ができないし、保険外なので時間は貴重。
質問を考えている間に他の人が質問をするくらいで。

・その場で主治医に電話させる。
どうしたいのかが決まったら、そのことを直接その場でオピニオン医師から主治医に電話させる。
医師たちは手紙のやりとりをしたがるけれど、その内容を患者や家族はわからない。
目の前で医師同士のやりとりをみるべき。

オピニオンの医師は主治医ではない。気持ちは伝えるべきだが、無理を言ってはいけない。
基本的に、患者とは、主治医のもので、入院先の院長でさえ治療方針に関与できない。
しかし、医師法19条に応召義務というものがあり、正当な理由がない限り医師は患者およびその家族の要求に応える義務がある。
とにかく、言いたいことはいう。大事なのは医師への苛立ちを解除することではなく、病気を摘むことだ。

患者が告知を拒否している場合、厄介だ。
なぜならオピニオンの委任状には病名を書かなければならない。
そういう時は「腫瘍疑い」という書き方がある。
患者には「ちょっとわからないから、あったとしても良性かもしれないから、一応、ね」という形で説得しよう。
そういう場合は患者はオピニオンには連れていけないが。

苦しんでいる人に少しでも。癌性腹膜炎のこと(1)

■癌性腹膜炎

原発不明の場合、基本的に治らない。
方法論の問題である。
つまり、特定のがん細胞であれば、薬や放射線で一極集中治療の可能性があるが、これは腹膜に散らばった小さながん細胞の起こす病気である。治せといっても、砂浜から黒い砂粒だけとりだせといっているようなものだ。

間違えていけないのは次の病気。

【腹膜偽粘液腫】
これは治るが手術以外の手は無いし、もちろん予後も芳しくない。
臓器を取り出して洗う。日本でやるところは少ない。
しかし、がん細胞をすべて洗い流せるのは土台難しい。
またこの病気は盲腸がんか卵巣膿腫からおこりやすい。

【腸間膜リンパ腫・クローン病】
癌性腹膜炎は初期に腸閉塞・狭窄が多い。
しかし、腹膜の病気であるから、内視鏡をいれても単なる炎症にしか見えない。

その他にもいろいろな病気が考えられる。
どのみち腹腔鏡をいれなければなかなかわからない病気である。
かといって、腹膜内は無菌であるゆえ、腹腔鏡をいれた瞬間がんは活性化する。
緩和ケアが最善となる。

しかし、誰でも最初からそういう気分になれるわけはない。
癌ですといわれてすぐに受入れて緩和だホスピスだなど、誰が受け入れられようか。
おそらく多くの人が、そんなことをいう医療関係者に腹立ちを感じるだろう。
それは正常である。それでいい。

だから、やれることを全部やる覚悟で、とにかく情報収集をするべきだ。
方法があるならなんでもやってみることだ。
但し、やれることは時間的にも体力的にも限られている。
そこを引き算しながら、最良の治療チャートを考えて動くべきである。